2024/10/8
プロゲーマー梅原大吾さん
押忍。八王子みなみ野道場の戸谷です。
いきなり対戦格闘ゲームの話です。
昨年6月に発売された『ストリートファイター6』、また今年1月に発売された『鉄拳8』が世界的に大ヒットし、実は今、世界的に見ると格闘ゲームが過去最高の盛り上がりを見せています。
プロゲーマーの大会や配信の機会もかなり増え、最近は、自身はゲームを遊ばなくてもプロのプレイを視聴するだけで楽しむ人たち、いわゆる「動画勢」の数も大幅に増えました。
かく言う私も、ゲーム自体はしていないものの、ストリートファイター6の大会やプロたちの配信を仕事がてら楽しく拝見しています。
今回こちらの項で紹介するのはプロゲーマーの梅原大吾さんです。
前述したストリートファイター6のプロプレイヤーであり、日本人で最初にプロゲーマーとなった方です。
当たり前のように「プロゲーマー」という言葉を使っていますが、2010年に梅原さんがマッドキャッツというアメリカ企業と契約するまでは、日本にはゲームのプロ選手という概念そのものがありませんでした。
梅原さんは1981年生まれ、現在43歳です。
小学2年生のときに青森から東京の足立区に引っ越してきて、小学5年生のときに友達の誘いで行ったゲームセンターで格闘ゲーム(ストリートファイター2)に出会います。
そこから見る見るうちに格闘ゲームが上達し、中学生のときには都内のゲームセンターコミュニティの中でも有名なプレイヤーとなっていました。
時代とともにゲームタイトルは変わりつつ、わずか16歳で全国大会初優勝、17歳で世界大会初優勝を果たします。
その後も数々の大会を総なめにし、最強プレイヤーとして世界的に名を馳せていきます。
…しかし、22歳のときに、最強のままゲームの世界から身を引いてしまいます。
ゲームの世界では最強であり超有名人であった梅原さんですが、世間一般では単なるフリーターでした。ゲームでどんなに努力したところで、勝ち続けたところで、一銭にもならないどころかお金は減る一方です。
ゲーム以外ではとても不器用な性分で、要領が悪く、仕事も覚えられず、バイトを始めてはすぐにクビになるのを繰り返していました。
また、世間の目もかなり厳しいものがあります。
「eスポーツ」としてプロゲーマーやゲームストリーマーが一般化した今の時代でも、若者が他の事を犠牲にしながらゲームを長時間やり込むのを是とする人は少ないかと思います。梅原さんの若年期であった20年前は、ゲームというのはあくまで「子供の遊び」、「暇なオタクのやること」、なんなら「百害あって一利なし」と考える人が世の大半でした。
「格闘ゲームの世界チャンピオン」という肩書が世間から評価されることなどないし、梅原さん自身もそれを恥ずかしい過去として自ら人に語ることはありませんでした。
貴重な少年期の時間を全てゲームに捧げてきた梅原さんは、大人になって自分が履歴書に何も書くことがない落ちこぼれであることを痛感します。
フリーターとしてアルバイトをしていた飲食店では、同世代のバイト仲間たちがいて楽しいときもありましたが、彼らは大学を卒業したらきちんと企業に就職してその場を去っていきます。
同じところでバイトをする同世代の仲間たちでしたが、彼らはちゃんと何かしらの人生のレールに乗っていました。梅原さんはこのままではいけないと、ゲームの世界から身を引くことを決意します。
「ゲームが上手くたってなんの役にも立たない」
「ゲームセンターに通い詰めるなんてまともな人間のやることじゃない」
「ゲーム以外は何もロクにできない」
今まで言われてきた至極真っ当な正論が、大人になって重くのしかかります。
子供のやりたいことに寛容で、普段弱音を吐くことのない梅原さんのお父さんも、家族に「大吾の育て方、間違えたかなぁ…」と漏らしていたそうです。
その後、紆余曲折、梅原さんは雀ボーイ、介護職を経て、あくまで趣味として再開していた格闘ゲームで世界大会に招待されて再び優勝します。そしてそれを見た企業から声が掛かり、29歳のときに日本人で初のプロゲーマーとなりました。本当にめちゃくちゃな人生です。
梅原さんのプロ進出を皮切りに、日本でもプロゲーマーの存在が認知され、様々なゲームジャンルでプロ選手が誕生し、その流れが定着していきました。
そして、梅原さんは、現役最年長クラスの年齢である現在も第一線で活躍されています。
ミステリアスなイケメンだった若かりし頃とは違い、現在は見てくれを気にしなくなり飲んだくれた面白おじさんと化していますが、今でも格闘ゲーマーの中で最も人気がある選手です。
私も一ファンとして梅原さんが大好きです。何が好きかって、自分が「好きなことしかしてこなかった」、「それ以外はできない人間として扱われてきた」というコンプレックスがあったことを認めた上で、現在のプロ活動をしているところです。
一般的なスポーツ選手は、そもそも自分のやっている競技の価値をあまり疑いません。その先にプロがあるかどうかはともかく、その競技で好成績を出せば、努力をしていれば、なんなら継続していたというだけでも、世間から相応に評価されるということを前提に活動しています。
梅原さんが青春を捧げた格闘ゲームというジャンルは、そもそも競技として世間の評価がゼロ、ないしマイナスだったわけです。10代20代の頃はずっと自分が恥ずかしいと思って生きてきたそうです。
どんなに努力しても、どんなに勝っても、どんなにそのコミュニティで認められても、ゲームセンターから一歩出ればただの落ちこぼれとして扱われます。そして、梅原さんはそれを甘んじて受け入れてきました。
「今はたまたま商売になっているけれども、自分はただのゲーム中毒者である」
「たかがゲームではあるけれども、そこに勝負事としての矜持を持って取り組んでいる」
この二律の価値観の下にプロ活動をされているのがとても格好いいなと思うのです。
多分、スポーツ選手の伝記を読んでいても、絶頂期に雀ボーイに転身しただとか、世界チャンピオンであることを恥ずかしくて隠していただとか、そういう過去がある人はいないのではないでしょうか。
挫折が描かれたとしても、「レベルの高いチームについていけなかった」とか「ケガで一年間苦労した」とか、普通はそういったものであって、「競技を頑張っていたら人生そのものに落伍者の烙印を押された」というようなエピソードはあまりないかと思います。
梅原さんはプレイヤーとしての強さや、ストイックな取り組み方が大きく評価されているのはもちろんのこと、自身の人生観の揺らぎ、世間からの評価の揺らぎ、これらに晒され続けてきたからこその魅力があります。
そんな梅原さんですが、ここ数年、配信ではたまに人生相談もやっています。これがまたいいんですよ。
"成功者"として上から目線で相談者をぶった切るのではなく、また表面的に優しいだけの一般論で茶を濁すのでもなく、ロクに勉強もしてこなかった、なんの仕事もできなかった自分を重ねつつ、心持ち一つで達者にやっていけることを説いています。
また、何かに真剣に打ち込むときの心構えや取り組み方が示唆に富んでいるので、ゲーム以外の世界で勝負をしている人たちにとってもそのマインドは非常に参考になるかと思います。
いくつか紹介動画や公式切り抜き動画を貼っておきます。
Daigo the BeasTV (公式YouTubeチャンネル)
『New Life -新しいスタート- 梅原大吾編 日本人初のプロ格闘ゲーマーの"好きを極める"奥義』
梅原さんの半生が本人の言葉を交えつつわかりやすくまとまっています。
テレビ番組のようなちゃんとした構成で、梅原さんもかなりかしこまっているモードになっています。
『「母を憎んでいます」最後の集大成mondで梅原が伝えたかった"ある一つの思い"【梅原大吾】【ウメハラ】【切り抜き】』
子供の頃、過干渉な親に全く褒めてもらえなかった…いわゆる「毒親問題」の相談投稿です。
相談者の家庭、梅原さんの友人の家庭、梅原さん自身の家庭、それぞれのエピソードを踏まえつつ、相談者の母親が子育てを間違えつつもどう足掻いていたか、ということに思いを馳せています。
そして、「褒められたかった」というコンプレックスを持つ相談者の強みに関して言及しています。
『【復活はいくらでも可能】絶望して学校へ行けなくなってしまった女の子へウメハラからの感動のアドバイス【梅原大吾】【ウメハラ】』
病気が切っ掛けで数年間学校に通えなくなってしまった中学生からの投稿です。
学校内でのヒエラルキーが下位になったことを気にする相談者の本質的なコンプレックスを突いた上で、優しく激励しています。
『自分の人生で学んだ大切な話・境界知能という境遇の質問者と真剣に向き合う梅原大吾【梅原大吾】【ウメハラ】【mond】』
人とのコミュニケーションが上手くいかないという、境界知能(知的障害まではいかないが一般よりも知能指数が低い)と判定された女性からの相談。
梅原さん自身が"できないやつ"として扱われ続けた過去を踏まえた上で、相談者が現状いかに頑張っているか、この先どうしていくべきかを語っています。
梅原さんの相談回答は、精神疾患や境界知能などの専門知識が関わる分野に関しては「わからない」「俺には力になれない」と断った上で、その人達の人生に対していかに自分の経験を照らし合わせた話ができるか、そこに注力しているところがとても良いです。
「仕事が続かない」「まともに働けない」という相談に対しても、情けないと一喝するのではなく、自分自身も同類であることを踏まえて「なんで俺たちってこうなんだろうね」という切り口で応えていきます。
上記で紹介した重めの相談以外にも、ゲーセン昔話であったり、サーベルタイガー最強説であったり、斧最強説であったり、わさお(犬)最強説であったり、いわゆるバカ話も沢山あって、どれもこれも面白いです。
子供の頃から真っ当に勉強やスポーツを頑張って、高い他己評価を維持するレースをやり続ける苦労というのもあると思います。文武両道が多い今時の空手の選手はほとんどがこちら側かと思います。
それと同時に、ドロップアウトを経験したことがないとなかなかわからない苦労やコンプレックスというのもやはりあります。
私は、空手の、特に少年部の指導に携わる上でどちらの視点も大事だと思っていて、その上で後者側の視点に立てる梅原さんの語り口を非常に参考にさせてもらっています。
そもそも自分自身、振り返るまでもなく完全に後者側の人間です。空手道場に通っている子に対しては、どんなに不器用でも、どんなにサボっていても、どんなにズルいことをしても、「子供時代の俺よりはるかにマシだよなぁ」と思いながら接しています。
空手も勉強も部活も頑張る子なんて、もう眩し過ぎて直視できませんよ…。
そんなわけで、今回はプロゲーマーの梅原大吾さんを紹介いたしました。
格闘ゲームコミュニティはゲームセンター文化が色濃く残った世界なので、梅原さんに限らず、みんな変な人生を送っているというか…面白い人が沢山います。「格ゲーのことはよくわからないけど、なんかこの人面白いなー」という選手が見つかったら、是非とも大会などで応援してみてください。
10月現在、各種個人トーナメント大会の他に、毎週火曜・金曜にストリートファイターリーグというチームリーグ戦も行われています。大体はYouTubeでライブ配信されています。
梅原さんは、私の妻の実家である熊本のチーム(Saishunkan Sol 熊本)に所属。猛烈に応援しています!
さて、空手も年末にかけて、昇段審査会、全関東大会、全日本大会と、行事が続きますね!
気合入れていきましょう!押忍!