2022/5/6
小学生柔道の全国大会廃止
押忍。八王子みなみ野道場の戸谷です。
先日の全日本選手権大会、極真祭、出場選手および関係者の方々はお疲れ様でした!
…というタイミングで話題にするのもなんなのですが、3月半ばに全日本柔道連盟が「行き過ぎた勝利至上主義が散見される」との理由で小学生の全国大会を廃止することを決定しました。
まさに我々で言うところの極真祭(全日本青少年大会)の廃止です。
このニュースは大きな反響を呼びネット上でも賛否両論見受けられましたが、スポーツ関連の主幹的立場にある人たちからは圧倒的に賛意の声が大きく上がっています。
スポーツ庁の室伏広治長官も、「早い段階から全国大会をやることに意義があるのか」と、個人的な見解としながらも柔道連盟の考えに概ね同意しています。
柔道連盟の言う「行き過ぎた勝利至上主義」とは、指導者や保護者が子供に無理な減量を強いたり、理不尽な叱責をしたり、審判や関係者に罵声や陰口を浴びせたりといった、教育・道徳上の問題を主としています。
「日本一」という名誉や肩書に大人が翻弄されているということです。
五輪でこの上ない結果を出している柔道が既存のシステムを変えようというのはよほどのことでしょう。
自分は支部の一職員として「全国大会をやるべきだ・やめるべきだ!」と見解を述べる立場にはありません。
ただ、青少年に指導をしている身として、他人事でもありません。
大山倍達総裁が「極真会館は勝負偏重主義だ」と仰っていたのは、そういった大会での表面的な勝敗のみを指すものではないと思います。
『勝負偏重主義の本当の意味とは。』(松井館長の閑話休題)
元陸上400mハードル日本代表の為末大さんも、また違う視点で柔道連盟のこの決定に賛同しています。
『若年層での全国大会がなぜ良くないか』
こちら↑のnoteでかなりわかりやすくまとめられています。
為末さんは「若年層での全国大会によってそのスポーツが弱くなる」と主張しています。
「大会によって弱くなる」というのは意外と思われる方が多いのではないでしょうか。
為末さんはその原因として「早すぎる最適化」を取り上げています。
子供時代ならでは勝ち方(最適化)というのはどの競技にも大なり小なり存在します。それに特化した育成をされた選手が大人になって伸び悩むというパターンもありますし、逆に、素質はあるのに子供時代にそこに適応できずに負け続けて諦めてしまうというパターンもあります。
集団競技であれば最適化できなかった子はレギュラーから外れて試合経験を得られない、という問題もあります。
こういったことによって選手層の裾野が狭くなり、結果そのスポーツが弱くなってしまうというものです。
空手もやはり少年部組手の勝ち筋に適応したかどうかで、早熟になってしまったり、諦めてしまったり…といったことが往々にしてあります。
いずれももったいないと思いますし、特に子供時代に組手競技を諦めた人が自然とそのまま空手自体からフェードアウトしてしまう…というのが一番寂しいですね。
先日の男子全日本選手権で優勝した西村界人選手は、10代の頃にも組手試合には出ていましたが、学生時代はラグビーに本腰を入れていて、本格的に空手に移行したのは大学を卒業した20代の頃からです。2017年、2018年のウエイト制では初戦敗退。そこから駆け上がっていきました。
そういった、大人になってから空手に戻ってきて活躍するケースももっとあってほしいと思います。
あるいは、そんなバッキバキに第一線の選手としてでなくても、自分ができる範囲で空手に取り組めるのならばそれもまたいいのではないかと思います。試合に出ていなくても強くはなれます。
そんなわけで、この小学生柔道の全国大会廃止のニュースには色々と思うところがありました。
単に一つの大会の有無だけの話ではなく、競技の意義、選手育成、青少年教育、指導者のあり方、保護者の習い事への取り組ませ方、それら全般に関わってくる話です。
いずれにせよ、練習でより高いレベルを目指していくことと、誰もがその競技に楽しく取り組めることは、やり方次第で両立できると思います。なんなら望むタイミングでそのどちらにも行き来できるのが理想です。
簡単なことではありませんが、町道場の指導員はいずれにも応える役割を担っています。
「勝ちたい」と望む人が勝てるように、自分のペースで鍛えたい人が疎かにされないように、今後も励んでいきたいです!