2013/4/30
Dーday
八王子 八王子みなみ野担当の大谷です。 やってきました記念すべき十五回目。 よく続いてるよ・・・さて何書くか?
生誕百年を記念してアンドレ・フリードマン 後のロバート・キャパ大回顧展、 あの有名な【Dーday】そして話題の恋人ゲルダ・ホボリレ、後のゲルダ・タローの作品も登場、砂漠の狐ロンメルの予言通り その日の天候は悪かった。 いざ開港150年の横浜へ。
今回 美術館が所蔵するキャパの作品193点を一挙蔵出し史上初、キャパなる人物が実は架空の人物で男女二人のユダヤ人が創作したものであることが悲劇を生んでいきます。
そのうちの1人、アンドレ・フリードマン(男)は戦争にてハンガリアを追われ 単身ベルリンへ。 そこで報道写真家を目指すことになります。その時代に撮ったスターリンに追われたレオン・トロツキーの演説写真はトロツキーのアジテーションと熱を感じる傑作です。 しかしヒトラーの登場でさらに追われてパリへ。
もう1人のキャパ ゲルダ・ホボリレ(女)はパリの地にてアンドレに出会います。 そこで二人はロバート・キャパなる架空で粋な格好いいアメリカ人の報道写真家を創作し売り出します。 イニシアチブは常に女性であるゲルダがとっていたようで、あの有名な【崩れ落ちる兵士】は最近になってゲルダが撮ったとも言われています(驚き)。 反ファシストの象徴ともなるこの作品はキャパの代名詞となり、名前を広く知られることになります。 【カタロニア賛歌】のジョージ・オーウェルは義勇兵となり【誰がために鐘がなる】のヘミングウェイは自ら特派員として参加していくスペイン内戦 フランコのファシスト勢力に共和制勢力、そこに独伊とソ連、英仏が加わり、代理戦争と化した戦場は新兵器の実験場となってイベリア半島の無辜の民を殺していきます。 この頃から二人は別々の写真家として活動していきます。 アンドレはキャパになりきり ゲルダはゲルダ・タロー(岡本太郎からとった)として女流報道写真家として活躍していきます。
大型のローライフレックスを駆使するゲルダの作風は作為的でもあり 小型のライカを駆使するキャパは危険な戦場により肉薄していきます。 そんな中 単身スペインで取材中のゲルダが戦車に轢かれ呆気なく死んでしまいます。ゲルダの死はフランスにて反ファシストの象徴として手厚く葬られますが、キャパとして生きる決意をしたはずのアンドレはもう1人の自分、愛する女性を失い、三日三晩 泣き続けたとも言われています。スペイン内戦の写真集をゲルダへの追悼として出版します。その前文には「スペイン 未だその地に居続ける君に・・・」。
彼女の死を受け入れねばならなかったキャパはさらに危険な戦場に踏み込んでいくことになります。北アフリカ戦線では地雷地帯に踏み込んで脱出に何時間も掛けたり、落下傘部隊の取材のため、一緒に降下までします。ある時の作戦ではアメリカインディアンのモヒカン族の勇猛さにあやかり、兵士が皆モヒカンにしたときはキャパだけは拒否したそうです。パンクじゃなかった・・・(涙)。そんなキャパもキャリア最大の取材 ノルマンディ上陸作戦の取材プレスに加えてもらいます。世界大戦の大局を決めるといわれたこの作戦、 作戦予定日は【Dーday】 キャパのいるアメリカ第一歩兵師団はオマハビーチの海岸線に陣取るドイツ兵の重火器の前に突っ込むという、命知らずでも尻込みする作戦でした。キャパいわく、作戦前の兵士達は軍人精神を発揮して嘔吐をし始め、上陸用船底は汚物にまみれたそうです。海水にドップリ浸かり弾丸や砲弾が飛び交う中を震える手でシャッターを切り続けた写真は何と106枚。命からがら戻った彼ですが、興奮した助手がネガの乾燥の熱処理を間違え焼いてしまいます。
残ったのは何とたった8枚(しかも かなり滲んだ状態)。その後 助手がどうなったのか想像したくありません・・・。ライフ誌に載ったキャプションには「そのとき、キャパの手は震えていた・・・」。
20年を越える彼の活動は五つの戦争に及びます。ベトコンがフランスからの独立を目指す仏印戦争の取材依頼を受けたキャパは再び戦場に向かいます。北アフリカ戦線では慎重だった彼ですが、ベトコンの地雷に触れ最後を遂げます。両足を吹っ飛ばされ 胸にも深手を追った彼ですが、それでもカメラだけはガッチリと両手で掴んでいたそうです・・・。 生前 ゲルダが撮った一枚のキャパの写真があります。そこにはカメラを構えるキャパの姿 まるでライフル銃を構える姿にも見えます。そこにあるのは 彼の一生は銃をカメラに変え、戦い続ける姿でした・・・。彼の手記に「私は戦死する最後の男の写真を撮った。この最後の日、もっとも勇敢なる兵士の数人がなおも死んでいくであろう。生き残ってゆくものは、死んでゆく彼らをすぐ忘れ去るのであろうか・・・」。 パパ ヘミングウェイと親子のような関係になり、スタインベックと親交を交わし、女優イングリッド・バーグマンと浮き名を流す。粋で格好いい男を演じきった彼は、もう1人のキャパ ゲルダの元に帰った・・・。我々は死んでいった彼らをすぐ忘れ去るのであろうか・・・。
果たして我が輩はキャパのことを理解出来たのであろうか? 次回がないことを祈りつつ・・・。